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はじめてのプリンス(First Prince)

  • 3月14日
  • 読了時間: 3分

更新日:3月27日

【YouTube】はじめてのプリンス / 恋するステラ【Official Music Video】

王城、午後三時。


中庭の白い石畳に、陽光がやわらかく落ちている。

噴水の水音が、遠くで跳ねた。


第2王子シエルは、重たい教本を抱えたまま廊下を急いでいた。

黒髪が揺れる。赤い瞳は、どこか焦るように前を見ている。


王子としての教育は厳しかった。

歴史、軍略、外交、礼儀作法。

玉座の前に立てば、大人たちの声が波のように押し寄せる。


第二王子。

継ぐか、支えるか、それとも余るのか。

自分の未来は、いつも曖昧だった。


その重さから逃れるように、彼は午後三時になると中庭へ向かう。


はじめて出会ったのは、廊下の角だった。

落ちた本をふたりで拾い、指がかすった。

顔を上げた瞬間、世界が少しだけ変わった。


薄茶色の髪。緑の瞳。

伯爵令嬢フルール。


大人しそうに見えて、芯が強い。


「王子様だからって、全部できるわけじゃないでしょう?」


その一言に、胸の奥の緊張がほどけた。


それから毎日。

午後三時の白いベンチ。


焼きたてのパンをちぎって分け合う。

バターを頬につけた彼女を見て、ふたりで笑う。


「ついてるぞ」


指先でそっとなぞれば、彼女はむっとして言い返す。


「勝手に触らないで」


けれど、その目は笑っていた。


彼女の笑い声は、旗より高く揺れた。

それを聞くだけで、剣よりも強くなれる気がした。


王子らしくなくていい時間。

国よりも大きく感じる、たったひとつの隣。


ある日の午後三時前。


花が咲き誇る中庭で、シエルは不器用に花を編んでいた。


「動くなよ」


そう言って、フルールの頭にそっとのせる。


陽光のなか、彼女は本当に花のようだった。


「約束しよう」


赤い瞳が、まっすぐに彼女を見つめる。


「ぼくが大人になっても、きみを泣かせない。

 どんな未来でも、きみの隣を選ぶ」


フルールは少しだけ驚いて、それから静かに笑った。


「じゃあ、わたしも約束する。

 あなたが逃げたくなったら、ちゃんと叱ってあげる」


小さな指が絡む。


午後三時の鐘が鳴る。


それは、まだ幼いふたりの誓いだった。


次の日。


シエルはいつものように中庭へ向かった。


白いベンチ。

噴水。

午後三時の光。


けれど、フルールは来なかった。


次の日も。

その次の日も。


理由は告げられないまま、

彼女は王城に現れなくなった。


中庭に立ち尽くしながら、シエルは思う。


胸が跳ねる感覚は、まだ消えていない。

けれどそれは、甘いだけのものではなくなっていた。


玉座の前で押し寄せる大人たちの声の奥に、

たったひとつ、静かに残っている言葉。


――きみを泣かせはしない。


忘れられてもいい。

届かなくてもいい。


それでも約束は、ここにある。


午後三時の光のなか、

少年はまっすぐ前を向く。


花の名前を持つ少女へ。

いつか、もう一度会える日まで。



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企画・制作:恋するステラ


【楽曲】

はじめてのプリンス


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